犬猫の歯みがき完全ガイド|歯周病予防のやり方・頻度・嫌がる子への慣らし方とおすすめデンタルケア
更新日:2025年12月11日
- 3歳以上の犬猫の約8割が歯周病にかかり、放置すると全身疾患につながるため、毎日の歯みがきが重要です。
- 歯みがきを嫌がるペットには、口周りを触ることから始め、ガーゼ、指ブラシ、歯ブラシへと段階的に慣らすことが成功の鍵です。
- 犬猫の歯垢は人間よりも短期間で歯石に変化するため、毎日または2〜3日に1回の歯みがきが理想とされます。
- 歯ブラシが最も効果的なケアですが、歯みがきシート、歯磨き粉、液体デンタルケア、デンタルガムなど補助グッズも活用しましょう。
- すでに硬い歯石がある場合は、自宅での除去は危険であり、必ず動物病院で全身麻酔下でのスケーリングを検討してください。
愛犬や愛猫の口の臭いが気になったことはありませんか?「年のせいかな」と思いがちですが、その口臭は歯周病のサインかもしれません。実は、3歳以上の犬・猫の約8割が歯周病にかかっていると言われています。放置すると全身の病気に繋がることもあるため、毎日の歯みがきが重要です。
この記事では、獣医師が以下の点を網羅的に解説します。
- 歯みがきを嫌がる子でもできる慣らし方のコツ
- 犬と猫の正しい歯みがきのやり方と頻度
- 子犬・子猫、老犬・老猫のデンタルケア注意点
- 目的別のおすすめデンタルケアグッズ比較
愛犬・愛猫の健康を守る口腔ケアを、今日から始めましょう。
なぜ犬・猫に歯みがきが必要?歯周病の恐ろしさと予防の重要性
「ドライフードしか食べないから大丈夫」「猫はきれい好きだから」と考えていませんか?しかし、犬や猫の口内は非常にデリケートで、毎日のケアが不可欠です。歯周病は、ペットにとって最も身近な病気の一つなのです。
犬・猫は歯垢が歯石に変わりやすい
犬や猫の口内はアルカリ性のため、歯垢(プラーク)が歯石に変わるスピードが人間より圧倒的に速いのが特徴です。
- 人間: 約25日
- 犬: わずか3〜5日
- 猫: 約7日
歯垢は歯ブラシで落とせる細菌の塊ですが、一度硬い歯石になると、家庭での歯みがきでは除去できません。歯石の表面はザラザラしているため、さらに歯垢が付きやすくなる悪循環に陥ります。だからこそ、歯垢が歯石になる前の「毎日の予防」が何よりも重要なのです。
放置すると怖い「歯周病」のサインと症状
歯周病は、歯垢内の細菌が原因で起こる炎症です。初期は症状が分かりにくく、気づかないうちに進行していることが少なくありません。以下のようなサインが見られたら注意が必要です。
歯周病の主なサイン・症状(初期)
- 口臭が強くなる
- 歯ぐきが赤く腫れる
- 歯みがきで出血する
歯周病の主なサイン・症状(中期)
- 硬いものを食べたがらない
- よだれが増える
- 歯がぐらつく
歯周病の主なサイン・症状(重度)
- 歯が抜ける
- 顔が腫れる
- くしゃみや鼻水(歯の根元から鼻に穴が開くことがある)
- 顎の骨がもろくなり骨折する
さらに、歯周病菌が血液で全身に回り、心臓病・腎臓病・肝臓病といった深刻な全身疾患を引き起こすリスクもあります。動物病院での歯石除去(スケーリング)は全身麻酔が必要なため、高齢や持病のある子には大きな負担となります。
毎日のデンタルケアが健康寿命を延ばす鍵
犬・猫の口腔ケアは、口臭予防や見た目の問題だけではありません。歯周病を防ぎ、全身の健康を守ることは、愛犬・愛猫の「健康寿命」を延ばすことに直結します。歯みがきは大切なコミュニケーションの時間です。焦らず、毎日の習慣にしていきましょう。
【初心者向け】犬猫が歯みがきを嫌がらない!慣らし方4ステップ
「歯みがきしようとすると暴れてしまう…」という悩みは多いものです。無理やり押さえつけると恐怖体験となり、歯みがき嫌いが悪化します。大切なのは「歯みがきは怖くない、楽しいこと」と教えてあげること。焦らず、以下の4ステップで進めましょう。
ステップ1:口周りを触られることに慣れさせる
目標
- 口周りを触られる抵抗感をなくす
ペットがリラックスしている時に、優しく声をかけながら頭や頬、顎の下を撫でます。大好きなおやつを与えながら行うと「撫でられる=嬉しいこと」と学習し、ポジティブな印象になります。数日間繰り返し、嫌がらなくなったら次のステップへ。少しでも嫌がったら無理せず中断してください。
ステップ2:歯や歯ぐきに触れてみる
目標
- 口の中に指が入ることに慣れる
口周りを触れるようになったら、そっと唇をめくり、指で歯や歯ぐきに優しくタッチします。最初は前歯や犬歯に一瞬触れるだけでOK。できたらすぐに褒めてご褒美をあげましょう。この段階で、ペットが好む味の歯磨き粉を指につけて舐めさせると、「口に指が入る=美味しい」と覚え、後の歯みがきが格段に楽になります。
ステップ3:ガーゼや歯みがきシートで拭いてみる
目標
- 歯の表面をこする感覚に慣れる
指で触ることに慣れたら、湿らせたガーゼや歯みがきシートを指に巻き、歯の表面を優しく拭いてみましょう。触りやすい前歯から始め、少しずつ奥歯へ。「今日は右側の犬歯だけ」など小さな目標を立てるのが継続のコツです。指の感覚で力加減を調整しやすく、歯ブラシを怖がる子や初心者におすすめです。
ステップ4:指ブラシ・歯ブラシに挑戦する
目標
- 歯ブラシで磨けるようになる
最終ステップです。まず歯ブラシの匂いを嗅がせたり、歯磨き粉をつけて舐めさせたりして、歯ブラシの存在に慣れさせます。実際に磨く際は、歯ブラシを歯と歯ぐきの境目に45度の角度で当て、鉛筆を持つくらいの軽い力で小刻みに動かします。最初は数秒から始め、徐々に時間を延長。終わったらたくさん褒めて特別なご褒美をあげ、「歯みがきを頑張ると良いことがある」と学習させましょう。
犬と猫の正しい歯みがきのやり方と頻度
慣らし方が分かったら、次は実践的な磨き方と頻度です。犬と猫で基本的な考え方は同じ。正しい方法で効果的なデンタルケアを習慣にしましょう。
基本的な歯の磨き方|犬と猫で違いはある?
ペット用の歯ブラシと歯磨き粉、ご褒美を用意します。小型犬や猫は、飼い主の膝の上で後ろから抱きかかえるようにすると安定します。
- 磨く順番: 抵抗の少ない前歯や犬歯から始め、歯垢が溜まりやすい奥歯へ進めます。
- 磨き方: 歯ブラシを歯に対して45度の角度で当て、歯と歯ぐき間の「歯周ポケット」を意識しながら、優しく小刻みに動かします。ゴシゴシ強くこする必要はありません。
猫の歯みがきのコツ
- 猫は犬より飽きっぽく、長時間の拘束を嫌います。
- 「短時間で集中して」行い、「今日は上の歯だけ」のように日によって場所を変えるのも有効です。
歯みがきの理想的な頻度は?毎日やるべき?
歯垢が歯石に変わるサイクル(犬:3〜5日、猫:約7日)を考えると、理想的な頻度は「毎日」です。これにより、歯垢が硬くなる前に除去できます。
毎日の食事の後や寝る前など、生活リズムに組み込むと習慣化しやすくなります。もし毎日が難しい場合でも、最低でも2〜3日に1回は行いましょう。できない日は、後述するデンタルケアグッズで補うのも良い方法です。
子犬・子猫の歯みがきはいつから?
デンタルケアは早ければ早いほどスムーズです。口に触る練習は、乳歯が生え揃う生後3ヶ月頃から始めるのがベスト。好奇心旺盛で新しいことを受け入れやすい時期です。本格的な歯ブラシは、永久歯に生え変わる生後6〜7ヶ月頃までに慣れさせておきましょう。
老犬・老猫のデンタルケアで気をつけること
高齢の子には無理強いは禁物です。体力も集中力も低下しているため、短時間で済ませることを心がけましょう。すでに歯周病が進行している場合、痛みで歯みがきを嫌がることがあります。その際は無理に歯ブラシを使わず、ガーゼで優しく拭いたり、液体デンタルケアなどを活用したりしましょう。定期的に獣医師の診察を受け、全身の健康状態をチェックしてもらうことも重要です。
【目的別】犬猫用デンタルケアグッズ5選|選び方と比較
多種多様なデンタルケアグッズの中から、ペットの性格や飼い主さんのライフスタイルに合わせて最適なものを選びましょう。
① 歯ブラシ・指ブラシ|歯垢除去効果No.1
歯ブラシ・指ブラシ
- 特徴: 歯周ポケットの歯垢まで物理的に除去できるのは歯ブラシだけです。デンタルケアの基本アイテムと言えます。
- メリット: 歯垢除去効果が最も高い。
- デメリット: ペットが慣れるのにトレーニングが必要な場合がある。
- 選び方: ヘッドが小さく、毛先が柔らかいものを選びましょう。360度ブラシも角度を気にせず磨けて便利です。
② 歯みがきシート・ガーゼ|手軽さで初心者向け
歯みがきシート・ガーゼ
- 特徴: 指に巻いて歯の表面を拭うタイプ。歯みがきに慣れさせる導入段階として最適です。
- メリット: 手軽で使いやすく、歯みがきへの抵抗感を減らせる。
- デメリット: 歯周ポケットや歯間の細かい歯垢は除去しにくい。
- 選び方: 汚れを絡め取りやすいウェットタイプや、ペットが好むフレーバー付きがおすすめです。
③ 歯磨き粉(ペースト・ジェル)|歯みがきを好きにさせる味方
歯磨き粉(ペースト・ジェル)
- 特徴: ペットが好む味で、歯みがきへのネガティブなイメージを払拭します。すすぎ不要のものがほとんどです。
- メリット: 美味しい味で歯みがきを「ご褒美」と感じさせられる。
- デメリット: 舐めるだけでは歯垢は落ちない。必ず歯ブラシ等と併用する。
- 選び方: ペットが好きな味を見つけるのが最重要。人間用の歯磨き粉(特にキシリトール入り)は中毒を起こすため絶対に使用しないでください。
④ 液体デンタルケア(飲み水に混ぜるタイプ)|手軽な補助ケア
液体デンタルケア(飲み水に混ぜるタイプ)
- 特徴: 飲み水に混ぜるだけで手軽に口臭ケアができます。歯みがきをどうしても嫌がる子や、補助ケアとして便利です。
- メリット: 手間がかからず、毎日手軽に続けられる。
- デメリット: 歯垢を物理的に除去する効果は限定的。あくまで補助的なケア。
- 選び方: まずは無味無臭タイプから少量で試し、水を飲まなくならないか様子を見ましょう。
⑤ おやつタイプ(歯みがきガム・トリーツ)|ご褒美を兼ねたケア
おやつタイプ(歯みがきガム・トリーツ)
- 特徴: 噛むことで歯の表面の歯垢をこすり落とす効果が期待できます。
- メリット: ペットが喜んで自発的にケアしてくれる。
- デメリット: 丸呑みすると効果がない。前歯のケアは難しい。カロリーに注意が必要。
- 選び方: 口の大きさに合ったサイズで、硬すぎないものを。歯が欠ける原因になります。歯垢・歯石の抑制効果が科学的に認められたVOHC(米国獣医口腔衛生協議会)認定マークも選ぶ際の目安になります。
自宅での歯石除去は危険?動物病院でのケアとの違い
すでに付いてしまった硬い歯石を「自分で取りたい」と思うかもしれませんが、自宅での歯石除去は非常に危険です。
自宅での歯石取り(スケーラー)のリスク
市販のスケーラー(歯石取り器具)を専門知識なく使用すると、ペットが動いた際に口内を傷つける危険性が高いです。また、表面の歯石を取っても、歯周病の根本原因である歯周ポケット奥の歯石は除去できません。むしろ歯の表面を傷つけ、さらに歯垢・歯石が付きやすくなる悪循環を招きます。
動物病院で行うスケーリングとは?
動物病院での歯石除去は、全身麻酔下で行う専門的な歯科処置です。超音波スケーラー等で歯周ポケットの奥まで徹底的に歯石を除去し、処置後は歯の表面をツルツルに磨き上げて歯垢の再付着を防ぎます(ポリッシング)。レントゲンで歯根の状態を確認することもでき、安全かつ確実な治療法です。
歯石がついてしまったら、まずは獣医に相談
口臭がひどい、歯ぐきから血が出るなど、歯石が気になる場合は、自己判断せず、かかりつけの動物病院に相談してください。プロの力を借りることが、ペットの健康を守る最善の選択です。
まとめ
愛犬・愛猫の歯みがきは、健康寿命を延ばすために不可欠な愛情表現です。歯周病は、全身の健康を脅かす病気であることを忘れないでください。
歯みがき成功への一番の近道は、嫌がったら無理せず、前のステップに戻って時間をかけて慣らすことです。これが最大のコツです。基本は歯ブラシでの毎日のケアですが、ペットの性格に合わせて様々なグッズを補助的に活用しましょう。もし硬い歯石が付いてしまったら、必ず動物病院に相談してください。
日々の小さな積み重ねが、かけがえのない家族の未来の健康につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 歯みがきを嫌がって暴れるときはどうすればいい?
A1: 絶対に無理強いはやめましょう。恐怖心が植え付けられてしまいます。一度中断し、ペットが落ち着いてから「口周りを触る」「美味しい歯磨き粉を舐めさせる」など、ペットが受け入れられるステップに戻ってやり直してください。二人体制で一人が優しく支え、もう一人がケアするのも有効です。小さなことでもできたら沢山褒め、歯みがきをポジティブな経験にすることが大切です。
Q2: 人間用の歯ブラシや歯磨き粉は使ってもいい?
A2: 絶対に使用しないでください。人間用歯ブラシはペットの口には大きすぎ、硬すぎて口内を傷つけます。また、人間用歯磨き粉に含まれるキシリトールは犬猫には有毒で、発泡剤なども体調不良の原因になります。必ずペット専用の安全なグッズを使用してください。
Q3: おすすめの歯みがきのご褒美はありますか?
A3: 歯みがき後に与える「特別なご褒美」を用意するのが効果的です。その子が一番好きなおやつが良いでしょう。歯みがきガムなどデンタルケア効果のあるおやつをご褒美にするのもおすすめです。ただし、おやつの与えすぎは肥満の原因になるため、1日の摂取カロリーの10%以内を目安に、主食とのバランスを考えて与えましょう。
- 犬猫の歯周病は全身疾患につながるため、毎日の歯みがきが健康寿命を延ばす鍵となります。
- 歯みがきを嫌がる場合は無理強いせず、口周りを触ることから始め、焦らず段階的に慣らすことが最も重要です。
- 歯ブラシが最も効果的ですが、歯みがきシートや歯磨き粉、液体デンタルケアなど多様な補助グッズを使い分けましょう。
- 歯垢が歯石になる前に除去するため、毎日または最低2〜3日に1回のデンタルケアを習慣にしてください。
- すでに歯石が硬化している場合は、自宅での除去は避けて、必ず動物病院で獣医師に相談しましょう。
初回公開日:2025年12月11日
記載されている内容は2025年12月11日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。